「海も山もある故郷を、何も無い町と呼んでいた。」—。飲食店の、すごく好きなキャッチコピーである。
以前、和歌山県中小企業家同友会で講演した藻谷浩介さんは、スライドに東京都の地図を映した。たくさんのビルやお店が密接に並んでいるその様子を指して、「ここには何もないですね」ときっぱり言い切る。つまり、そこに並んでいるのは箱物であって、実際にモノを生産しているわけではないというのである。また一方で和歌山県の地図を映して、この土地がいかに豊かなのか、世界の中でこれだけの山々と森林、美しい海に囲まれた地域がどれほど貴重な価値のあるものなのかを、力強く説いた。痛快かつ強烈な講演だったのを覚えている。
都会は、人の手で作ることができる。しかしローカルはどうだろう。そこには、土台となる地形や気候、自然環境、風土、そこに根付く人々の生活、積み重ねてきた歴史、文化がある。これは人工的に作り出すことができない。金でも買えない。
「地域性」どころの話ではない。本当の意味での発展とは何なのか。今一度、熊野の価値を再考していきたい。
【稜】