事実は小説よりも奇なり、という言葉の通り、メジャーリーグで二刀流を実現しホームランを量産する大谷翔平選手、将棋の最年少記録をことごとく塗り替えて史上初の八冠を達成した藤井聡太棋士と、現実がフィクションを凌駕する事態は割とある。この想定外の事実の積み重ねが歴史の面白さであり、伝統文化の価値の源といえる。
地域の伝統や歴史に触れる機会が多いが、どうしても由来や細部で「もう分からない」にぶつかることがある。一度なくなってしまった無形の文化は、記録と記憶をたどって再生するほかない。
尾鷲市誕生祝い唄が記憶をたどって〝復元〟されたが、おそらくこのタイミングを逃せばもう聞くことはなかったであろう。記憶頼みで元の唄とは多少違うかもしれないが、伝統の消滅にあらがった証拠であり、こういった変化こそ人が意思を持ってつなげていく伝統文化の在り方の本質ともいえる。過疎化で不安は尽きない今だからこそ、このまちとともに祝福されて誕生した賛歌の再生はすばらしい。
(R)