過去の新聞を読みながら、自分がいなかった頃のまちはどうだったか、と思うことがある。文字と写真で情報は伝わるが、紙面のモノクロは鮮やかな色に変わらず、叶わぬ夢があるような気になる。
一度見てみたかった光景の一つに、行灯で照らされた旧熊野古道がある。世界遺産登録時などの話を聞く度に、このまちがどれほど幻想的になっていたのか、と想像することしかできない。
世界遺産に登録されたのは峠や山道だが、そもそも「紀伊山地の霊場と参詣道」は信仰の旅路が本質で、伊勢路は庶民が一生涯の思い出として歩く旅路。近世の日記には栄えていた尾鷲のまちなみや料理に好意的な記述も残る。尾鷲のまちなかで茶をすすり、飯を食い、宿をとることも、当時の古道客の追体験の一つといえる。
20周年の中井町の街道では「旗てる鈴ドン(大漁旗・てるてる坊主・風鈴・行灯)」という、これまでやってきたことの全部乗せの企画を行う。かつての祈りの道を、地域活性化の願いをこめて照らすことになる。
(R)