紀北地域児童発達支援施設の開所式の最中、玄関にツバメが2羽飛来し、しばらくくるくると飛び回った。害虫を食べて農作物を守り、夫婦で子育てをするツバメは幸せを運ぶ益鳥で、幸先が良い。
式の後で施設内を見学していて、ふなつ幼稚園だったころを思い返した。東からの陽光が差し込む遊戯室にいると、子どもたちのはしゃぐ声がどこからか聞こえて来る気もする。園庭の桜は満開で、ところどころに咲く黄色と紫の花はカワバミとスミレだろうか。学び舎から子どもの声が消えても、春が来れば花は咲いて鳥は歌う。
王子像が貧しく悲しむ人たちに宝石や金を与えるオスカー・ワイルドの『幸福な王子』は博愛と自己犠牲の物語だが、社会福祉の理想ともいえる。窮状を伝えて宝石や金を運んだのはツバメだった。
幼稚園は児童発達支援施設になり、形は変わったが、またこの場所に子どもたちの声が戻ることになる。子どもが少ない地域だからこそ、一人ひとりに寄り添った教育、地域全体で支える子育てを目指せるはずだ。
(R)