地下鉄サリン事件から30年が経った。阪神淡路大震災から2か月後、一般市民に化学兵器が使用された世界初の事件に、子ども心に安全だと思っていた世界が根底から崩されるような心持ちになったことを覚えている。
ヨガサークルから始まった宗教法人が国家転覆を目論む最悪のテロ集団になっていく経緯は、出来の悪い小説を読んでいる気分になる。なぜ人間はこんな荒唐無稽な思想を信じ、殺りくを肯定する思考に陥るのか、理解し難い現実がある。
国内に限ったとしても、政治家を狙った暴挙が続いている。既存社会を否定し、暴力によって変革をもたらしてよいという安直で稚拙な暴挙がなくならない。個々の事件をとり上げて社会全体を論じるのはフェアではないが、SNSの浸透もあり、デマや陰謀論がはびこりやすい、思考がさらに先鋭化しやすい社会になっているのでは、と危ぐしている。
天災は避けることができないが、犯罪や戦争は人災である。少なくとも、30年前のあの光景はもう二度と見たくない。
(R)