この地域で過ごす時間が長くなるにつれ、お世話になった方の訃報を耳にすることが増えてきた。漁業や祭りなど、この地域について懇切丁寧に教えてくださった方にもう会えないのは、寂しく悲しい。
引本神社の森本巖前宮司が亡くなったという知らせを聞いた時は、まさか、と思った。その2か月前の初天神(行灯祭り)で「行灯祭りを続けていくために、どうしていくかを考えていかなければならない」と熱く語っていたからだ。
宮司を継ぐ意志を示している長男の篤生さんを取材する機会があり、前宮司が例祭の御祖祭りを終えた後で体調を崩し、治療にあたっていたと聞いた。「苦労を話す父ではなかったが、御祖祭りをやり遂げなければ、という思いがあったのだと思う。父はしっかりと役目を果たして逝った」と篤生さん。「治療中に『まだ神職として生きていたい』と言っていた」とも。
前宮司は近隣地域の神事や後進の指導など、引本神社以外で見かけることが多かった。前宮司の尽力もあり、八重垣神社や相賀神社は神職が常在し、引本神社も後任に見通しが立っている。『人を残すは上』の言葉もある。失ってから存在の大きさを感じている。
(R)