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社説「教訓伝える意識 みんなで」

 2011年9月の紀伊半島大水害の遺族らでつくる那智谷大水害遺族会が解散した。昨年13回忌を終えて一つの区切りがついたとして、9月4日の慰霊祭のあとの総会で決めた。設立当初から節目の13回忌を目標に活動していたこと、会員の高齢化、慰霊祭への参加者の減少などを受け、会として一定の役割を果たしたことが解散の理由。これまで遺族会が担ってきた慰霊碑がある記念公園の維持管理などは地元区が引き継ぐが、災害で父と甥(おい)を亡くした岩渕三千生代表は、解散しても背負っているものは変わらず、今後も災害の教訓を伝える活動は個人で続けていくとしている。

 岩渕代表は「忘れたらあかん、忘れさせたらあかん」とよく話していた。同じ被害を二度と繰り返さないため、この出来事を後世に教訓として語り継いでいくことを使命とし、「自分の身は自分で守る行動を」と訴え続ける。
 
 気象状況は年々厳しさを増している。台風本体はもちろん、台風から離れていても豪雨となる場合がある。当地方は地域柄、雨に慣れている人は多いが、昔の感覚でいると危険な場合もある。迷走した今年8月末の台風10号などは別として、気象予報の技術の進歩により、かつてのように「台風がそれた」というケースは少なくなった。ある程度正確な予報が数日前には分かるため、突然襲う地震とは違って事前行動が取りやすいはずだ。
 
 当事者だけが強く意識しても、犠牲者ゼロを目指す取り組みは難しく、一人一人の防災意識を高めることが第一歩となるのではないか。新宮市の災害史誌を発行した上野山巳喜彦さんは、過去に経験した災害に学び、現在を点検し、未来に備えることが大切と訴える。毎年9月4日に大水害で殉職した消防団員を追悼する「消防安全誓いの日」を開いている新宮市消防本部では、消防職員として大水害を経験していない職員の割合が今年で45%を占めるようになったが、先輩から後輩にしっかりと教訓を引き継いでいる。新宮市立緑丘中学校では毎年、この日にあわせて防災学習を行っている。
 
 地震への備えも同じ。今年8月には「南海トラフ地震臨時情報」が初めて出され緊張が走った。当地方でも量販店やコンビニ店では備蓄用に飲料水を買い求める人が殺到し、一時的に品薄となるなど、住民の防災意識は一気に高まった。高い意識を維持したままの生活は困難だが、1週間程度の食料品の備蓄や非常持ち出し袋の準備、避難場所や経路を家族とともに確認するなど、日頃からできる備えをお願いしたい。
 

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