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社説「ドクターヘリの現状『いま』の安全担保は」

 南北に距離が長く、医療資源が和歌山市に集中している和歌山県で、救急医療の最前線を担うドクターヘリは「命のインフラ」といえる。新宮市立医療センターからの搬送は、2022年=12件、23年=9件、24年=14件、25年=8件、26年=3件(7月9日現在)あり、県都から遠く離れた新宮・東牟婁地方にとって、一刻を争う重篤患者の搬送をヘリに頼る意味は極めて大きい。昨年度に委託事業者の整備士不足を理由とした運休が51日間に及んだという事実は、当地方住民の医療への信頼を揺るがしかねない深刻な事態と捉えなければならない。

 宮﨑泉知事は県議会6月定例会の一般質問に対する答弁で、「より確実で安定的な運航体制を構築する」と表明。委託業者の機体に頼る現状を改め、全国の自治体で初めて県自らが約21億円を投入してヘリを購入し、整備や運航を民間事業者に委託する方針だという。抜本的な解決へ向けた県の主体的な姿勢は評価できる。しかし、住民が本当に知りたいのは、構造改革が進むまでの「いま、この瞬間」の安全がどのように担保されているのかということ。県は、近隣府県のドクターヘリによる応援や消防防災ヘリなどの代替手段を確保しており、現場からのトラブル報告はないと説明。新宮市立医療センターも県と同様に「要請を断られる機会が増えたというイメージはない」としている。しかし、一分一秒が命を左右する現場で、ヘリの空白がもたらす心理的不安は、数字上のデータや当局の肌感覚だけでぬぐえるものではない。応援機体がいつもあるとは限らず、救急車による搬送では時間がかかりすぎる過疎・へき地だからこそ、ドクターヘリの存在自体が最大の安心材料だったはずだ。
 
 さらに、県が計画する独自機体の運航開始は2029(令和11)年度を目指すとされている。導入までにはまだ3年以上ある。この不透明な期間、新宮・東牟婁地方の救急体制がどう維持されるのか、代替機が要請から何分で到着できるのか、要請が断られることはないのかなど、より具体的で検証可能な運用実態を示してもらいたい。県当局や県議会議員は、高度な救急システムや予算の枠組みを専門用語で語るだけでは足りない。遠方住民の目線に立ち、地域医療が決して見捨てられていないことを「分かりやすい言葉」で説明する責任がある。広報紙やデジタル技術を活用した丁寧な情報公開を強く求める。同じ県民で命の格差を生んではならない。
 
 また、市立医療センターが救急体制を充実させていくには、赤字経営の解消も大きな課題。過去には救命救急センターをつくるという“約束”に対して、当時の知事から「ドクターヘリをしっかりと運用する」という話があったと聞く。市当局や県議らは、この機会に県に対して、救急体制充実への支援を求めて汗をかいてほしい。
 

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