前回社説で、自然災害時など危機が発生したとき、どのような対処をするかを管理する「クライシスマネジメント」について触れたが、災害によって受ける影響を広い視野でみると、環境面もある。例えば海岸への漂着物の処理。放置すれば景観的な問題のほか、アカウミガメの産卵や、海に逆流すれば漁業への影響も深刻だ。
新宮市の王子ヶ浜(大浜海岸)では10月18日、今季同海岸で産卵、ふ化した子ガメの放流会が行われたが、周辺には先日の台風14号接近に伴い漂着した流木などが目立っていた。
三重県側の七里御浜海岸では、一昨年の台風で打ち上げられた流木が長らくそのままになった状態を問題視した市民団体が、昨年官民一体で定期的に清掃活動を実施することを提案。漂着物の処理方法をめぐって行政側が事実上断ることになったが、その後、海岸管理者である三重県の発注工事により必要に応じて流木などの撤去が行われている。多額の税金がかかるわけだが、それぞれの管理者が責任をもった対応で世界遺産「浜街道」の保全に努める姿勢は見せている。
王子ヶ浜ではこれまで、ウミガメの保護活動を行う市民団体が漂着物に関してもボランティアで撤去し、人力でどうにもならない場合は、業者から機材を投入、行政にも呼び掛ける形で大規模な清掃活動を繰り返してきた。これにより長期間にわたって流木が海岸を埋め尽くすというような事態はほとんどなかった。
一方で、ボランティア頼みの状況を危惧する声も。活動の一助となるはずの補助金が支給されず、携わる人たちの高齢化も進み、これまで通りの環境保全活動を継続していくことが難しくなっていた。
こうした状況から今年6月、市民団体と関係機関による同海岸の環境保全に関する協議が行われたが、意識に大きな隔たりがあるとして、ボランティア側が今後1年間の清掃活動の中止を告げた。
同海岸の管理者は和歌山県、熊野川河口部は国土交通省、さらに吉野熊野国立公園内であることから環境省も関係する。浜王子から世界遺産・熊野古道「高野坂」に至る経路でもあり新宮市も景観保全に取り組む必要がある。
今後の同海岸の環境保全をどうするのか。これまでのボランティア活動に敬意を表しつつ、これからは行政が主導して事後対応の流れをつくることを求めたい。「クライシスマネジメント」の一つと考えて。