当地方の自治体の新年度予算を見ると、防災・減災への取り組みに力を入れているところが多い。「住民の生命と財産を守る」という自治体の役割を果たすべく、ハード・ソフト両面でさまざまな事業がこれまで行われているが、予想される南海トラフ地震に関しては、国で想定の見直しが行われ、能登半島地震や南海トラフ巨大地震臨時情報発表といった状況も踏まえると、これまで講じた対策についても見直し、必要に応じて更新していくことが求められる。新宮市の海抜表示板や津波避難誘導看板は設置からかなり年数が経過しており、市民から「少ない」「目立たない」という声がある以上、適切な配置についての見直しや、周知方法について考えてもらいたい。
沿岸部のある当地方の自治体では串本町、太地町、那智勝浦町、紀宝町、御浜町、熊野市で津波避難タワーの設置が進む中、新宮市は地区からの要望がある中でもいまだに検討段階。有事の際、海岸近くにとどまるより高台への避難を呼び掛けるが、高齢者や障がい者などは短時間で遠くに避難することは難しい。発災直後は自助・共助を求めなければならない。助かるための環境は行政の責務で整えてもらいたい。
共助の関係では、新宮市が避難時に誰かの支援が必要な人の名簿を町内会長に渡したことについて、先月の市議会常任委員会で、法的根拠のない任意団体の町内会に名簿を渡し、町内会長の有事の際の具体的な行動も示されておらず、「責任の所在が不明瞭」などと問題視する声が上がった。
防災全般を捉えても、町内会(自治会)単位で構成する自主防災組織の在り方について見直す時期が来ているのではないか。町内会によっては高齢者ばかりで、その状況で共助を求めるのはあまりにも酷(こく)。また、地区間で活動に温度差があるのも実情だ。今後は公民館単位などもっと大きな組織として、市内全体で防災への取り組みを進めていくのはどうか。その際には、若手の市職員も一員に加わって普段の活動から関わることで地区の課題など細かな状況が分かり、市民の声も直接聞くことができる。
新宮市だけでなく、地域全体でこれからますます高齢化が進む。自主防災組織を機能させるためには、行政がコーディネートをしっかりと行い、訓練や研修会などに若い世代の参加を促してほしい。「これまで通り」では有事の際、助かる命が助からないことがあるかもしれない。万全を期すためには、定期的な見直しが必要だ。