人口減少対策に"待ったなし"は、全国どの地方自治体にも言える。生産年齢人口が減少し、出生数の推計グラフは右肩下がり。単純な子育て支援ではなかなか展望が開けないだろう。
瀬戸内海に浮かぶ人口約7800人の広島県大崎上島町。消滅可能性自治体にも名を連ねたこの町が教育に力を入れたことで元気を取り戻した。2019年4月に開校した県立の全寮制の中高一貫校「広島叡智学園」は生徒の約3分の1が県外からの入学者。文部科学省も推進する国際的な教育プログラムへの取り組みをはじめ、グローバルな人材を育てる最先端の教育環境を求めて移住する家族も多いという。
当地方の少子化も顕著だ。児童生徒数の減少に伴う学校の再編が進んでおり、新宮市では緑丘中と城南中が2027年度に統合し、新宮中学校として新たな一歩を踏み出す。その1年前の2026年度には、和歌山県立の新宮と新翔の両高校が統合し、新「新宮高校」になる。教育環境が変われば、住民生活やまちづくりにも影響が出る。教育委員会だけでなく、市長部局もともに関わっていくべき課題と言える。
中学校と高校が同じ時期に再編統合を迎えるのを契機に、県立中学校設置についての議論があってもよかったのではないか。2004年度の向陽中(和歌山市)を皮切りに、古佐田丘中(橋本市)、田辺中(田辺市)、桐蔭中(和歌山市)、日高高校附属中(御坊市)と県内では現在5校の「併設型中高一貫教育校」がある。南北に広い県内の拠点となる各エリアに設置する当初計画では新宮も候補に挙がったものの、エリア内の私学に配慮する形で見送られた。
ただし、当時とは状況も随分変わっている。私学には部活動での活躍を目標に県外から多くの生徒が入学。新宮高校は2025年度から新設の学彩探究科で全国募集枠を設け県外の7人が合格した。新宮・新翔の両校は再編で、地域の特色を生かした学校づくりも念頭に置いている。県立中学校の設置は生徒の選択肢を広げるだけでなく、公立と私学の切磋琢磨によって地域全体の教育水準の高まりも期待できる。
先述した広島県大崎上島町の事例でも分かるように、学校教育には大きな可能性がある。将来この地域をリードする人材の育成、さらに、特色ある教育を全国にPRして移住促進などまちづくりにも絡めれば、人口減少対策の一つになる。ほかでは見られないような思い切った施策が必要。当局や議会には知恵を絞って考えてもらいたい。