旅とは、まだ見ぬ景色との出会いである。そしてそれは即、物事の新しい見方を獲得するという、まだ知らぬ自分との邂逅(かいこう)である。
昔から「旅がしたい」という漠然とした渇望があった。毎日毎日、与えられた机と椅子の小さな世界を強いられていた中学生の時は、流動することのない一様な教室の風景に狭苦しさを覚え、憤りと葛藤を胸中で反すうしていた。
大学は、地元北海道を離れ沖縄県へ移り住んだ。あれが積極的な移動だったのか反動だったのかはわからないが、結果的に、それが私の旅の第一歩となった。大学を休んで半年間暮らしたオーストラリアでは、自分が心を閉ざしている時期で思うように行かなかった。大学卒業後に地元へ帰って肉体労働をし、マンホールの中で気づきを得る。「遠い海外へ行かなくても、見知らぬ景色は生まれ育った故郷にあった」。そして今は紀南で記者をし、いろんな世界と関わらせてもらっている。
自分が移動し世界を渡り歩くことも旅なら、一点にとどまりその中で流れていく世界をつぶさに観察することも旅だと思う。最近言語化できた。私がしているのは「定住という旅」であると。
【稜】