三輪崎海水浴場が開いた。
海に関する詩を1編。「あの青い空の波の音が聞えるあたりに/何かとんでもないおとし物を/僕はしてきてしまったらしい/透明な過去の駅で/遺失物係の前に立ったら/僕は余計に悲しくなってしまった」—。谷川俊太郎の「かなしみ」である。
まるで空と海を一つとして捉えているように感じる。この詩の主題の一つは「記憶」であろう。空を見上げるとき、海を見渡すとき、空と海の境界が見えなくなるとき。ふと、理解できない懐かしさを感じることがある。その正体を意識で探るが、いつまでも明らかにならない。明らかにならないのに、忘れていることだけは覚えている。かつてはすごく大切にしていたものなのかもしれない。はたまた自分の一部だったのかもしれない。しかし、思い出せない。そんなもどかしさの決着が、一人の人間として「かなしみ」という感情で終わってしまうことすら悲しいことなのかもしれない。
海は、いろんなものを受け入れながら対流している。自分の中にも深い海がある。たまにはせわしない日常と距離を置いて、海に浸かりながらぼーっとしてみるのも悪くない。
【稜】