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紀南抄「春」

 春が来た。桜が紀南の各所で見ごろを迎えている。

 生まれ育った北海道にいたころは、卒業式や入学式の時に桜が咲いていることなど、夢物語だと思っていた。北海道は桜の開花が遅く、例年5月ごろであったと記憶している。卒業式の時はまだ雪があり、入学式の風物詩は私の中では雪解け水でグシャグシャになった道だった。

 一方で、紀南と北海道で変わらないと感じることもある。それは冬の風がやわらかく包まれるような春の風に一変したことを感じるあの瞬間だ。外に出た途端、陽気とともに温かい風がふわっと頬を通り過ぎるあの感覚がうれしくなる。

 大学時代の沖縄では、逆に1月に桜が咲いていた。沖縄の桜は濃いピンク色の「リュウキュウカンヒザクラ」という種でちょっと変わっている。何が一番違うかというと、きれいに散ることをしないのである。花びらが舞う代わりに、花全体がボトッと落ちる。風流というよりはむしろシュール。ソメイヨシノを知っているだけに、「もうちょっと頑張れよ」と言いたくなる。桜にとっては余計なお世話なのだろうが。

 紀南に来て、季節の変化は体が覚えているのだと感じる。

【稜】

      紀南紗

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