人の世において、物事を進めるのは大抵、頭が良い人でも力が強い人でもなく、声が大きい人だ。声の大きさは権力の大きさと似ているところがある。
新聞記者だって気をつけなければいけない。気を抜くと権力者の声ばかりが耳に入ってくるが、目を向けるべき社会の現実は小さな声しか出せない人のところにある場合が往々にしてある。「事件は会議室で起きてるんじゃない」とあの有名なドラマのセリフでも言っていた。社会は役場や議場ではなく、まちの中で動いている。
マンガ「キングダム」では、武将になる素質の一つとして声に言及する箇所があった。指示を出す時、兵を奮い立たせる時、勝どきをあげる時。さまざまな場面でよく通る声は、出世に欠かせないファクターのようだ。
逆説的に、声の大きさに惑わされず伝えられるのが文章表現の魅力だと思う。声の権力性を外に切り離したまま、純粋に伝えたいことを届けられる。
この3月だけでも市町村の定例議会に感染対策呼びかけ、ひなまつり、ウクライナへの募金呼びかけ、合格発表、卒業式などさまざまな人の声を拾ってきた。これからも、純粋な声に耳を傾けたい。
【稜】