江戸時代から昭和初期にかけて、熊野川河川敷には「川原家」という簡易住宅が並んでいた。物流や商品取引の中心地であった熊野川を訪れる人々に向けて、飲食店、鍛冶屋、宿屋などが営まれ、最盛期には約200軒が連なっていたという。
川が増水すると家を畳み、水が引くと再び組み立てるため、解体しやすい釘(くぎ)を使わない構造となっている。先日、川原家の組み立て・解体を初めて見る機会があったが、たくさんあるパーツが気持ち良いほどぴったりはまって、徐々に家らしくなっていく様子に感動。先人の知恵と工夫が詰まった素晴らしい建築物だと思った。
新宮市では、かつてのにぎわいを再現した川原家横丁が熊野速玉大社横に数件並んでいる。飲食店や土産物などがあり、休日には観光客や地元の子どもたちでにぎわうが、大社の駐車場を道路で隔てた対面に立地しているため、大社を訪問する客からは分かりにくい。熊野川とともに生きてきた私たちの歴史と、川原家の魅力をもっと多くの人に知ってもらうため、もう少し何とかアピールできないかと思う。
【織】
