息を吸って、吐く。普段は無意識のこの運動を、意識的にやってみる。
鼻から気持ちよくなるまでふんわりと大きく吸い込んで、空気が体の管を通って胸の奥へ達するのを確かめる。中が充満していく安どと緊張を保ったまま、しばしその地点で留まる。続いて、安らぐように口から放つ。管を通って息が外界に溶け込んでいくことを確かめる。単なる呼吸の繰り返しを意識するだけで、自分の身体がそこにあり、かつ常に運動していたのだと気付く。
思えば、内臓はいつでも強く体を循環させている。心臓など、私の意思とは無関係に今まで、止まることなく動き続けている。脳で考えている時は、あたかも自分のことは自分で決めていて、生死すら手中にあるような気がするが、その実、自分を取り巻く思ったよりも多くのこと、ともすればほとんど全てのことは、意思とは無関係な何らかの運動によって与えられているのかもしれない。それは体という小宇宙を超えて、自然や縁、結といったものを含む大宇宙全ての運動にまで及ぶ。
こうしている間にも、呼吸はいつの間にか無意識の運動に戻っている。
【稜】