「きゃあ」と、左後ろで悲鳴が聞こえた。振り返ると、コンビニのチキンの袋を手に持ちながらのけぞる女子中学生4人組と、飛び去るトンビ。状況を察知するとともに、ある時のことを思い出していた。
まだ小学生だった。外で弁当を食べていたら、目の前をサッと何か大きなものが通った。あまりに一瞬だったが、飛び去ったものが鳥類であることは間接視野でぎりぎり認め、びっくりして声も出なかった。すると近くで見ていた男性が近寄ってきた。40~50代くらいか。ポケットから小銭入れを取り出し、500円玉を差し出してきた。衝撃冷めやらぬ私の脳みそコンピュータは、加えて起きた不可解な出来事に処理が追いつかず、フリーズしていた。すると男性は、昔トンビに食べ物をさらわれた時、付近の大人がかわいそうだと言って食べ物をおごってくれたのだと、話を始めた。つまり男性は、その恩を私に渡したかったのだ。
そんな妄想をしているうちに、私の足はすでに向き直って前へ歩き出していた。今あの子たちにお金を差し出せば不審者まっしぐらだろうな、などと思いつつ。
【稜】