大きな事象について考えるとき、まずはそれを構成する一要素をサンプルとして考えることが、その原理を紐解くことにつながる。
新宮市立佐藤春夫記念館で、企画展「『わんぱく時代』の地から—知られざる佐藤春夫の軌跡—」が始まった。同記念館と実践女子大の包括連携協定締結を記念してのもので、館内には往年の文豪が春夫にあてた手紙・原稿や、春夫自身の手帖(てちょう)・原稿など貴重資料が所狭しと並べられている。
ひと目俯瞰(ふかん)しただけでも、春夫の人脈の広さや郷土と春夫とのつながりなどが感じられる展示であることがわかる。中には当時の熊野の写真や地図、日露戦争を背景とした春夫の日記なども見られ、過去と今をつなぐ新宮の資料としても、示唆に富んだものと思われる。
記念館と実践女子大は今後も、共同研究などで協力を進める。春夫研究で見えるのは、おそらく佐藤春夫という一人の人間だけではない。一人を紐解くということは、そこと結びつくあらゆる社会・世界との関連性から、果てはその社会そのものを見ることにもつながる。この企画展に、まだ見ぬ熊野が眠っているかもしれない。
【稜】