トイレの貼り紙からは、学ぶことが多い。
串本町道の駅「くしもと橋杭岩」の男子トイレ小便器前に立つと、「もう一歩前へ」という文字が目に入る。木でできた飾りのような板に少しくずれた文字で書かれてあり、味のある木の雰囲気から、そこに長くかけられているのだろうと推測できる。
その言葉に勇気をもらった人間は多かったのではないか。かくいう私もその一人。ちょうど環境の変化やいまいち踏ん切りがつかない自分自身に葛藤していた時だったが、答えは小便器の奥にあった。
コンビニのトイレでは「いつも清潔にご利用いただきありがとうございます」と書かれている。これはなかなかに秀逸な発想。「きれいに使ってください」「汚さないでください」などと押し付けるのではなく、先にお礼を言ってしまうことで気持ちよく利用させてくれるのだ。
先にお祝いしてしまうことで福を呼び込む、日本古来の「前祝い」に似た発想である。心理学では実際、人は「悲しいから泣く」のではなく「泣くから悲しくなる」という研究結果も出ている。どうせ同じできごとなら、笑っておくほうが良い。
トイレの教訓、人生に通ず。
【稜】