移住して記者を始めた頃、この地域であまり見かけない苗字が市内の写真屋の屋号と一緒だったために、「もしかして、写真屋さんの親戚の方?」と聞かれることが多かった。「よく言われるんですが」というのが鉄板の持ちネタになっていた。会話のきっかけづくりに助けられたと、一方的に恩義を感じていた。
最初住んでいたアパートの近くに、割安の自動販売機がある商店があった。買ったコーヒーで手を温めながら出勤したり、勤務中に一本だけ寄り道をしたり、帰りに家用の飲み物を買い込んだり、大げさに言えば、その自動販売機と苦楽を共にした感がある。
その写真屋も、その商店も、とうとう店を畳んだ。高齢のために店がなくなるのはこの地域では珍しくない。ただ、過疎化でまちが枯れていくかのようにも思える。
最近読んだ小説で「人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある」という言葉に出会った。なんとなく、いつか恩返しができたら良いな、と思っていたが、世界は待ってくれない。
(R)