先日、熊野市の外海にある磯で、大阪市から来ていた釣り人が高波にさらわれて海中に転落。溺れて亡くなるという事故があった。県水難救済会紀南地区海難救助連絡協議会に所属する漁船をはじめ、尾鷲海上保安部からも巡視艇みえかぜと陸上班が出動したが、現場付近は海上のうねりの影響で波が高く、岩に当たって数メートルの高さに達する波もあり、陸からも海(船)からも近づくことができなかった。
天気予報などで使われる波の高さは、連続する波を観測し、高い方から3分の1を選んでその平均を出したもの。その数値より低い波も多いが、確率的には100回に1回は約1.6倍、1000回に1回は約2倍といわれている。1.5メートルの波でも、100回に1回は2.4メートル、1000回に1回は3.2メートルにもなり、比較的穏やかそうに見えても、予期せぬ大波にのみこまれることがある。
第四管区海上保安本部管内で、平成30年までの10年間の釣りの最中に事故に遭った人は158人。発生場所は防波堤、岸壁、消波ブロックといった港湾施設が70%の110人。磯場が24%の38人、その他が6%の10人。事故の約7割に当たる119人が海中転落で、そのうち42%の50人が死亡または行方不明となっている。
平成29年1月には、南伊勢町の宿田曽漁港内の防波堤先端で、釣り人が海中転落して亡くなる事故も発生。ライフジャケットは防波堤上に残されていた。熊野の事故ではライフジャケットを着けていたが、それとて完全ではない。
危険なのは海だけではない。川でも増水で取り残されるといった事案が発生。昨年8月には、大型台風が迫る中、大分県の渓谷でバーベキューをしていた家族連れの18人が孤立している。
「せっかく来たのだから」という心理が働くことも理解できるが、命をなくしては元も子もない。楽しむことも大事だが、一番の目的は無事に帰りつくこと。必要なのは、自然を甘く見ないこと。行き先の地形などとともに、気象や海象の把握を含めた周到な準備、現地での状況判断。そして何より大切なのは〝やめる勇気〟である。