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社説「津波対策、先送りするな」

 11月5日は「世界津波の日」。1854年の安政南海地震で、濱口梧陵が「稲むらの火」によって住民を高台へ導いた故事にちなむ。津波は、地震発生後の迅速な避難によって人的被害を減らせる。しかし、避難を呼び掛けるだけで命は守れない。安全な避難場所と経路、災害時にも機能する行政施設を、平時から整えておくことが不可欠だ。

 紀宝町では先日、町内で5基目となる津波避難タワーが完成した。これで、現時点で計画していたタワー整備は完了。那智勝浦町では津波避難タワーの整備を終え、現在は庁舎移転に向けた協議が進んでいる。両町ともに災害時の避難所環境改善に向けトイレカーの導入も済ませるなど、住民のための防災対策を着実に進めている。

 一方、新宮市はどうか。沿岸部の市民から要望が出ている津波避難タワーについて、市は老朽化した既存公共施設の再整備と合わせて検討するとしている。公共施設の更新と防災対策を一体的に進める考えは理解できる。しかし、「検討する」という説明を繰り返すだけでは、市民の不安は解消されない。津波は、施設の建て替え時期や財政事情を待ってくれないからだ。市内では、大浜堤防の破堤や熊野川、市田川からの越流により、広い範囲で浸水する想定が示されている。どの程度の住民を、どこへ、どの時間内に避難させるのか。高齢者や障がい者、乳幼児を抱える世帯への対応をどうするのか。市は地域ごとの避難条件を具体的に検証し、避難タワーの必要性と整備時期を明らかにすべきだ。さらに、大浜の堤防機能を兼ね備えた新宮道路の整備についても、国や県への働き掛けを一段と強める必要がある。道路は交通のためだけの施設ではない。東日本大震災で姉妹都市の宮城県名取市では、市内を通る仙台東部道路の盛り土構造が「高台」と「防潮堤」という2つの機能を発揮した。

 市議会の6月と9月の定例会を見ると、議員同士の主義主張に時間を費やし、本来行うべき市民のための議論ができていない。生命に関わる諸課題を置き去りにし、来年春に控えた市議選を意識した言動と透けて見える議員もいる。他の自治体から新宮市が立ち遅れていることを正面からただすことのできない議会では情けない。次回選挙から定数1減の14となるが、このままではさらなる削減を求める市民の声も出てくるのではないか。

 12月定例会では、避難タワーの整備方針、老朽公共施設の再編、避難所の安全性、新宮道路の進捗(しんちょく)と国・県への要望内容を真剣に議論すべき。南海トラフ地震発生など有事の際、数日間耐えれば物資の支援は各地から届くだろうが、水やトイレなど衛生面は新宮市が自ら備えるほかない。生命に関わる対策を、いつまでも「検討」の段階にとどめてはいけない。津波対策の遅れは、行政上の一課題ではなく、市民の生命に直結する問題だと認識する必要がある。世界津波の日を啓発行事だけで終わらせることなく、計画を前に進める契機にしてもらいたい。

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