11月23日に皇居で行われる宮中祭祀(さいし)「新嘗祭(にいなめさい)」に向け、那智勝浦町の太田地区の農業、大江清一さん(78)が和歌山県を代表して新米を献上した。10月22日に皇居で行われた献穀献納式で天皇陛下からお言葉をいただき、大江さんは「大変光栄でありがたいこと。米作りは1人ではできない。地域の協力があってこそ」と語り、今回の栄誉を地域全体の喜びとして受け止めている。
新嘗祭は、天皇陛下が新穀を神々に捧げるとともに、自らも召し上がり、五穀豊穣(ほうじょう)と国家国民の安寧をお祈りされる宮中行事。全国47都道府県から新穀が献上され、和歌山県では県内の振興局管内を持ち回りで献穀者を選んでいる。今年は東牟婁地域が担当となり、米どころの太田地区で長年稲作に取り組む大江さんが選ばれた。
大江さんは市役所に37年間勤務する傍ら稲作に取り組み、退職後は農業に専念。現在は約4.5ヘクタールの水田で稲作に取り組んでいる。今年は4月下旬に田植えを行い、8月上旬から9月上旬にかけて稲刈りをした。献上したのは、収穫したコシヒカリの中から特に出来の良いものを選別した精米1升(約1.5キロ)。
22日は全国の献穀者らとともに皇居を訪問。「献穀者御会釈」では、天皇陛下から穀物や農作物の作柄状況などについてお尋ねがあり、各地の代表者が答えた。このあと、新嘗祭が執り行われる神嘉殿を拝観したという。大江さんは「始まるまでは緊張したが、天皇陛下はテレビで拝見する以上に穏やかで、終始和やかに談笑されていた」と貴重な経験を振り返った。
太田地区では、農業者らを中心とした太田地おこし会(太田幸助会長)や、太田Uターン協議会(仲地雅壽会長)などが、農業振興や地域活性化に取り組んできた。2011年の紀伊半島大水害を景気に地域の将来を考える活動が広がり、旧太田中学校を活用した交流拠点「太田の郷」の整備にもつながった。大江さんは太田の郷の会長も務めている。
また、地元産米のブランド化にも取り組んでおり、「太田の(ちから)」と名付けたブランドには、米作りに欠かせない人、水、土の3つの要素と、地域の人々が力を合わせるという思いが込められている。
大江さんは「田んぼに水を引くにも、水路の管理や草刈りなど、多くの人の協力が必要。農業をしていない人も含めて地域全体で支えてくれている。今回の献穀は皆さんの努力の成果である」と話す。
一方で、稲作を取り巻く環境は厳しく、高齢化や担い手不足に加え、米価の変動、鳥獣被害、気候変動など課題は多い。「一度耕作をやめて荒れてしまった田んぼは簡単には元に戻せない。農業を続けていける環境づくりが大切」と訴える。
太田地区では近年、会社勤めを辞めて就農する人や、イチゴ栽培などに取り組む若い世代も現れているという。大江さんは「若い人たちが農業で自立し、生活できるようになってほしい。そのためにも健康で動ける限り、農業も地域の活動も頑張って続けていきたい」と語った。
