世界遺産のまちとして観光客を迎える顔と、人口減少や高齢化に悩む暮らしの現場。その両方を抱える那智勝浦町のかじ取り役を決める町長選が21日(火)告示、26日(日)投開票の日程で行われる。観光振興の成果をどう暮らしの安心につなげるか、防災や医療など身近な課題にどう対応していくか。立候補の事前審査を済ませたのは3選を目指す現職と、元町議の新人の2人で、一騎打ちとなる公算が大きい。政策論争を期待したい。
生マグロと温泉、熊野那智大社や那智の滝で知られる那智勝浦町は、これまでも観光を町づくりの柱に据えてきた。コロナ禍明けから旅行需要の回復で人出は戻りつつあるが、人口減少と高齢化の流れは止まっていない。観光のにぎわいが、若者の雇用や子育て世代の定住につながらなければ、地域の土台は弱いままだ。また、老朽化する町並みの社会資本整備を進めているが、新庁舎の整備とあわせて、財政面で有利な補助を得るためにも、リーダーには国や県との太いパイプの構築が求められる。
今回の町長選の争点の一つに観光振興への取り組みが挙げられる。単発のイベントや施設整備にとどまらず、宿泊・飲食、漁業や農業、福祉までを含めた地域経済の循環をどう描いていくかという具体策を提示してもらいたい。
防災に関しては、紀伊半島大水害(2011年)から年月が経過し、記憶の風化が懸念されている。土砂災害や津波のリスクを抱える那智勝浦町では、砂防えん堤や津波避難タワー、避難路の整備が進む一方、高齢化が進む中で地域コミュニティの絆をどう保つかが防災力を左右する。高齢者が多い地域では、平時の見守り体制がそのまま災害時の命綱となる。医療や介護、交通といった暮らしのインフラの維持も欠かすことができない。防災と福祉を切り離さずに進めることが大切だ。
地方選挙といえば地縁血縁が色濃く、候補者の人柄や政策の中身を吟味することなく、投票先は決まっているというケースが少なくない。しかし、小さな町だからこそ、説明責任と情報公開の重みは増している。「決めたことの報告」ではなく、「決める前からの対話」ができる町政かどうか。有権者はその視点からも候補者を見比べたい。人口減少に直面する町では、一票の重みは都市部以上に大きい。観光のにぎわいも、防災の備えも、町の将来を外から誰かが決めてくれることはなく、町民一人一人の一票が那智勝浦町の次の一歩を形づくっていく。町の将来を考える機会にしてもらいたい。
