ヘミングウェイの小説「老人と海」は、老いた漁師が1人で海へ出て見たこともような大物をかけ、それに船を引きずられながら4日間奮闘する物語。大海原でひとりぼっち。陸を離れ、本当の孤独に立ち返る中、次第に老人は綱でつながったその魚を兄弟と感じるようになる。
熊野修験ら一行が8日、大峰奥駈修行を行った。那智山から本宮まで約30キロの山道を歩くハードな修行だ。
山歩きは、幼い頃から父に連れられよく行った。2泊3日の縦走では重い荷を背負い、早朝から日暮れまで歩いた。最後には足が震え、一歩を進めるのすらおっくうになりながら、しかし投げ出そうにも、結局歩かなければ帰れない。すると次の一歩が出ている。そんな繰り返しだった。
老人は意識が落ちそうになりながらも、残る力を振り絞って、最後には“兄弟”をしとめる。しかしその後次々とサメがやってきて、帰港した頃には、ただ信じられないほど大きな骨だけが残る。
何を持ち帰るかではない。極限の状態で、最後に振り絞るものと出会う。その地点に、人間性すら棄却した、ただ純粋な生命を見る。
【稜】