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紀南抄「本音と冗談」

 冗談は、難しい。どこまでが本気でどこからが冗談かを言われた当人が判断しなければならない。「智(ち)に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい」とは夏目漱石の言だが、当方はここに「冗談を真に受けると噛(か)み合わない。本音を冗談とするとばつがわるい」と付け足したい。

 そもそもユーモアとは高次な知性を必要とする。人が笑うためには、その事柄について全容を理解し、理解を前提としてそれに対する矛盾やジレンマを受け入れた上で、自分なりの解釈を落とし込むことでようやく「ふふっ」と吹き出すことになる。お笑い芸人がよく口にする「笑いは裏切り」という言葉を踏まえると、裏切られるためにはその前に予測しておく必要もある。

 ただ、ユーモアが日常を明るくしたり、人間関係を築いたりすることは多々ある。知性的でありながら感情にも働きかけ、住みにくい世の中をより穏やかにしてくれる。どんな意地っ張りも笑ったら大抵愛きょうのある顔をしているものだ。冗談の扱いは難しいが、少なくとも人の本音を冗談のように扱わないよう戒めたい。

【稜】

      紀南紗

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