尾鷲市出身の作家、伊吹有喜さんが小説新潮で連載している『灯りの島』が終戦直前の佳境に差し掛かっている。戦争体験者への取材での「小説は虚構だが、精密な物語を書きたい」という言葉を裏付けるように、手にした年表と地図にはたくさんの付箋が貼られていた。尾鷲にとっては小説としての価値だけでなく、近代史の物差しの一つになるのでは。
直木賞候補作の『雲を紡ぐ』に続く『犬がいた季節』は自身が育った四日市が舞台で、その次が最新作の『灯りの島』。戦前から戦後にかけての物語は『彼方の友へ』があるが、そこに自分のルーツの尾鷲を加えた『灯りの島』は、伊吹さんにとって覚悟の作品なのではないかと、推測しながら読んでいる。
尾鷲をモデルとしたデビュー作『風待つひと』が韓国で映画化されると伊吹さん本人から聞いた。『四十九日のレシピ』『今は、ちょっとついていないだけ』『ミッドナイト・バス』が映画化されている。『灯りの島』が映画になるなら、撮影の誘致に全力を尽くすべきだろう。
(R)