南海トラフ地震への備えが急がれる中、新宮市と紀宝町で防災訓練が行われる。紀宝町は8日に毎年恒例の町内一斉の総合防災訓練を実施。訓練放送を合図に高台などへ避難し、各地区の避難所で安否確認や炊き出しを行う予定だ。完成した津波避難タワーも活用し、住民が実際の避難行動を確かめる機会となる。新宮市は15日、5年に一度の総合防災訓練を開催。午前8時55分のサイレンを合図に、地震の揺れを想定し、その瞬間に身を守る初動行動を体で覚える「シェイクアウト訓練」を皮切りに、熊野川河川敷で消防や警察などによる実働訓練、丹鶴ホールとその周辺で防災用品の展示や体験コーナーなどが予定されている。市民が災害への備えを身近に考える場として、大きな意味を持つ。
訓練は実施して終わりではない。サイレンが鳴った時、どこへ逃げるのか。家族と連絡が取れない場合、どう安否を確認するのか。高齢者や障がい者、乳幼児を抱える家庭を、誰がどのように支えるのか。避難所に到着した後の水や食料、トイレ、情報の確保はどうするのか。訓練を通じて、地域ごとの課題を具体的に洗い出す必要がある。特に重要なのは、訓練後の検証。「訓練が無事に終わった」という報告だけでは、次の災害に備えたことにはならない。できたことだけでなく、できなかったことを率直に明らかにする姿勢が行政には求められる。
避難タワーも、完成しただけで命を守れるわけではない。住民が場所を知り、入り口や階段を確認し、夜間や悪天候でも迷わず避難できるようにしておくことが欠かせない。平常時から防災学習や訓練に活用し、子どもから高齢者までが施設に親しむ環境を整えるべきだ。また、当地方の沿岸部で唯一避難タワーを備えていない新宮市は、設置を求める住民の声にどのような形で応えていくのか。計画を示す必要がある。
行政には、訓練で見えた課題を防災計画や施設整備、備蓄、要支援者対策に反映させる責任がある。避難所の安全性や収容力、道路が寸断された場合の輸送手段、停電や通信障害が起きた場合の情報発信など、検討すべき課題は多い。防災対策を担当部署だけの仕事にせず、福祉、教育、医療、建設、地域振興など、庁内各分野が連携して進めることも大切だ。一方、住民にもできることは多い。訓練に参加し、自宅から避難場所まで歩いてみる。非常持ち出し品や備蓄を点検する。家族と避難先や連絡方法を話し合う。近所で声を掛け合い、支援が必要な人を把握する。こうした日常の備えが、いざという時の行動を左右する。防災は行政だけでも、住民だけでも成り立たない。訓練を官民がそれぞれの役割と課題を確認する機会にしたい。訓練の日を終点にせず、次に何を改善するのかを定め、地域全体で取り組みを積み重ねる。その積み重ねこそが、災害から命を守る確かな力になる。
