住民の命を守るために欠かすことのできない救急車。新宮市消防本部は昨年中に出動した救急件数は1846件で、前年から44件増えて過去最多を更新した。同本部の救急件数はコロナ禍のピークだった令和4年に過去最多となり以降、増加傾向が続いている。
同本部によると、増加した要因の一つとして、昨夏の猛暑による熱中症の搬送や、新型コロナウイルスの感染が疑われる発熱での搬送を挙げ、コロナ前との変化については「発熱で救急車を呼ぶ人が増えた」としている。同本部の救急車は本署に3台、熊野川出張所に1台の計4台を配備。本署の3台のうち1台は車検時などに運用する予備的な1台で、通常の稼働は2台。熊野川の1台は北山村の搬送も担う。
高齢化の進展などを背景に出動件数が増加するなど、救急医療を取り巻く現場は今後ますます厳しさを増すことが予想される。そのような中、最近注目を集めているのが軽自動車をベースにしたミニ救急車。車両がコンパクトになった以外、患者の収容や応急処置ができる機能を持っている点は一般の救急車と変わらない。福岡県広川町の姫野病院がこのミニ救急車を民間では全国で初めて導入した。導入理由は、診療エリアには狭い道や山道が多く、一般の救急車では通り抜けできない場合もあるため。これにより、山間部の集落にも家のすぐ近くまで行ける。導入費用は約700万円で、一般の救急車と比べると4分の1から5分の1程度。さらにガソリン代や維持費も安く済むという。
このミニ救急車は2011年、国の要件緩和により各地の消防が相次ぎ導入。和歌山県内ではこれまでに那賀消防組合や橋本市消防本部で配備されている。
山間部が多く、市街地でも細い路地が多い当地方でも導入を検討してはどうか。救急車を広い道路に止めたまま、救急隊員がストレッチャーを転がしながら細い路地を駆ける様子がたびたび見られるが、一分一秒を争う救急現場では、患者との距離ができるだけ近い方が救命率も上がる。また、自宅前まで救急車が入ることができると分かれば、住民にとっての安心感にもつながる。費用を安く抑えられるのも大きく、先進事例を研究し、導入に向け前向きな議論をしてもらいたい。