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社説「駅トイレ 市の判断・対応に疑問」

 観光客をもてなす先頭に立つべき新宮市の対応に疑問を感じる。市が管理するJR新宮駅外側のトイレが8月30日から使用できなくなった。

 今回の事態は担当課である市商工観光課の怠慢と言わざるを得ない。新宮駅のトイレは、JRが管理する改札内と新宮市が管理する外側の2つがある。浄化槽は共通しており両者が共同で管理しているが、老朽化が進み更新の必要性が出てきた。2年ほど前にJRから市に費用負担の相談があったが、金額が高額になることを踏まえ、現行のトイレを閉鎖し、新たに建設することを決めた。見積もり段階では更新するよりも新設の方が2000万円ほど安くできる想定だ。
 
 この判断は金銭面だけを見ると間違ったものではないかもしれないが、JRとの関係性を考えると果たしてどうか。JRは民間企業であることを忘れてはいけない。きのくに線の新宮~白浜間の利用客減少で特急くろしおが減便となる中、沿線自治体で構成する紀勢本線活性化促進協議会が路線の維持に向けて地域や駅周辺の活性化、利用促進などの取り組みを行っており、先日は同協議会の新宮白浜区間部会が2026年度の同区間一日あたりの特急列車乗客の数値目標を1040人に設定した。兵庫県明石市の前市長・泉房穂氏は市長時代にJRといろいろなことで協力して良好な関係を築き、明石駅を中心とした中心市街地活性化を進めた。また、ある自治体ではJRの株式を購入し株主として沿線を守る努力をしている。当地方の観光や通学手段として鉄道は欠かすことができず、仮に廃線になれば輸送力は大幅に低下し、影響は計り知れない。新宮市はもう少し慎重に判断すべきだったのではないか。
 
 トイレの新設に関しても結局は棚上げになっていた。昨年夏にJRから浄化槽更新の時期を「2024年の秋から冬ごろ」と聞き、市は駅前広場の空き地に新設計画を立て、予算を組んだ。今年度中に設計を行い、来年度中の完成を目指すというが、少なくとも1年程度、玄関口のトイレが使用できなくなる異常事態にも関わらず、何とものんきな対応に思える。“空白期間”を生まないことを意識すれば、本来2年前から、遅くとも昨年夏からでもこの1年で十分に対応できたはずだ。
 
 本紙の取材に同課は、「新設までの期間は、徐福公園や蓬莱公園のトイレを利用するよう案内している」とするが、荷物を抱えた観光客はどう思うだろうか。近隣の店舗や事業所にトイレ利用者が流れることも懸念される。
 
 「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録20周年を迎えた今年、新宮市でもさまざまな記念行事が行われている。プロジェクションマッピングやライトアップを施した「光の演出」も立派だが、肝心な部分を見失っているのではないか。観光客に第一印象で不快感を与えると、そのあとのサービスがいくら良くてもリピーターにはつながらない。市議会の9月定例会でしっかりと対応を話し合ってもらいたい。
 

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