先日、本紙紙面で熊野市が実施している「市長への手紙」を紹介した。河上敢二市長が就任以降、20年近く続いている取り組みで、原則全てに市長が目を通し、回答している。パフォーマンスの側面があったとしても、非常に良い取り組みと言えるのではないか。自治体によっては、ホームページやメールでも意見・要望を受け付けているところもあるが、全戸配布の広報紙に用紙を折り込み、意見を書いて切手を貼らずに投函できるスタイルが高齢者にもやさしく、「出してみよう」という気持ちにさせている。
首長や議員に直接意見・要望できるのは、支援者のほか、各団体の代表者など、地域の顔役と呼ばれる人たちが中心。報告会や懇談会を催しても、大勢の前で発言できる人はなかなかいない。言いたいことがあっても言う機会がないと感じている住民は少なくない。
新宮市自治会連合会は昨年、各自治会に防災活動の実態などを調査するアンケートを実施した。実質的に活動しているのは全体の約16パーセントしかないという結果を受け、自主防災組織登録の世帯数の割合が約85パーセントと説明する市当局の見解とあまりに実情が異なっていることに危機感を募らせ、市議会と懇談会を開いた。このように住民の声を踏まえたうえで対応策を検討すれば、机上の空論ではなく中身の濃い議論になるだろう。
新宮市議会は議会改革調査特別委員会で議員定数削減の議論を進めている。これまでの議論では、市民アンケートを行えば多くの市民が定数減を求めるという認識が委員の中で共通している一方、専門職を市民から任されている立場からすると、定数減によって市長や有力者の力が強まり二元代表制の維持に影響し、民主主義を守れなくなるのでは、という不安を払拭できないなどを理由にアンケート実施に慎重な声がある。
このところの市議会では、議員同士の争いなどにより市民不在の議会と揶揄されることもあった。この際、市民が適正と考える定数や市民感情を調査してはどうか。市民の方を向いて仕事をするきっかけにもなる。
声を聞くことの不安、変化することへの抵抗。行政や議会が住民の声を積極的に聞こうとしない代表的な理由だろう。声を聞くことは政治の原点と言っても過言ではない。多様な意見を丁寧に聞き、より良い方法やアイデアがあれば積極的に取り入れ、政策を常に見直し、改善していけば、住民サービスはおのずと向上するのではないか。