地域住民の生活道路であり、観光や物流でも大動脈の役割を果たしているのが国道168号。紀伊半島大水害(2011年9月)では、新宮市の高田から熊野川町までの間の至るところで土砂崩れや道路欠損が発生した。地元建設業界の懸命な応急復旧により約40日間で片側交互通行できるようになったが、それまでの間、新宮方面と本宮方面を結ぶルートは、三重県を迂回(うかい)するしかなかった。
新宮市から奈良県五條市にかけての国道168号では、国、和歌山県、奈良県により、紀伊半島内陸部の活性化を図る地域高規格道路として、安定した交通路の確保、線形が厳しい箇所や幅員の狭い区間の解消などを目指し各地で整備が進んでいる。しかし、このうちの一つだった、新宮市高田地内、白見の滝付近の「仮称トンネル2号」は、残土から基準値を超える有害物質が多数検出され、その処分費用に莫大な予算が必要となることから先日、和歌山県が工事の休止を発表した。
このトンネルが完成すれば、旧道となるはずだった現道は当面現状のまま。この区間にある高田口トンネルは、本宮から新宮市街地に向けての走行車線の一部に大雨時、水たまりができる。路面が傷み、はがれたアスファルトの粒が周辺にちらばっている状態で、道路管理者の県東牟婁振興局新宮建設部はこの状態を認識しており、応急対策として、トンネル入り口付近に雨天時の走行注意を呼び掛ける立て看板の設置を検討するとした。コロナ禍が明けて以降、当地方を訪れる観光客は国内外問わず増えている。今年は世界遺産登録20周年の記念の年でもあり、これからの時期大勢が訪れるだろう。道に不慣れな観光客だが、旅先で交通事故に遭うことなく安全に帰ってもらうため、応急対策はすぐにでも行ってほしい。
高田口トンネルに限らず、現道には老朽化の進む箇所が多い。再び災害によって幹線道路が長期にわたり通行止めになる状況は、住民生活や経済活動に影響があり、避けなければならない。県当局や議会は休止となった「仮称トンネル2号」の今後の対応について検討するのと同時に、現道の維持管理には一層力を入れてもらいたい。
先日、本紙の「備えあれば」のコーナーで取り上げた、新熊野大橋の路面の凸凹について、数日前に確認したところ、凸凹はほぼ解消し、平らな状態に近づけていた。抜本的な対策にはお金も時間もかかるが、このようにできる対策から進めていくことは大切だ。