民間有識者らで作る「人口戦略会議」が、2020年から50年までの30年間に、全国の市区町村の4割にあたる744自治体が消滅する可能性があると分析した報告書をまとめた。出産の中心世代となる20~30代の「若年女性人口」が50%以上減少する市区町村を「消滅可能性自治体」と定義したもので、和歌山県では全30市町村中23市町、このうち新宮市・東郡では北山村を除く5市町が該当。今回田辺市も含まれた。三重県では全29市町中12市町で、南郡・熊野市の3市町は全て含まれた。
「子育てするなら新宮市」と掲げ、令和4年度から給食費無償化、今年度からは医療費無償化を高校卒業までに拡充するなど、近年子育て支援を手厚くしている新宮市。そのような中、消滅可能性自治体となったことに田岡実千年市長は「名前が入っているのを見てショックだった」と肩を落とす。
一方で、全国を見れば地方でも人口が増加している自治体もある。岡山県西粟倉村は林業に力を入れたことで移住者が増え、千葉県いすみ市は学校給食を基盤に有機米の産地づくりに取り組んだ結果、転入者が増えた。両自治体に共通しているのは、一次産業に着目したこと。当地方も一次産業の支えにより、これまで地域が発展してきた歴史がある。近年、さまざまな要因で衰退しつつある一次産業もあるが、一工夫すれば再び隆盛を見ることはできるのではないか。素地やノウハウはあるはずで、全国の成功事例を参考に知恵を絞ってもらいたい。
また、豊富な自然と歴史文化のある地域の特性を生かした移住・定住の促進はこれまで同様に続けながら、他地域からの若い人たちの呼び込みにも注力してはどうか。今年度、普通科を改編して「未来創造学科」を設置した串本古座高校では「宇宙探究コース」に県外から生徒が集まった。令和7年度には三重県立紀南高校と木本高校が統合され、熊野青藍高校として新たに出発する。新たな学校では一次産業に着目し、例えば柑橘(かんきつ)栽培を生かした学科を設けるなど、県外からの生徒獲得に努めるべきではないか。
当地方では、「消滅可能性自治体」という事実から目を背けずに、各自治体ができる対策を続けながら、少しでも減少幅を緩やかにしていくことが求められる。住民一人一人も30年後の自分の暮らしや地域の姿を想像し、身近なこととして考えることで、自治体や国を動かしていくことにつながるのではないか。