秋まつりのシーズンを迎えた。当地方では9月から11月にかけて、各地で地区伝統の祭典が開かれる。特に今年はコロナ禍明けで、しばらく中止としていた行事を再開させるという地区が多い。にぎやかな祭りを待つ地区住民の期待に応えるため、祭典関係者は準備や練習に汗を流している。
それぞれの祭りに特徴があっておもしろい。例えば、那智勝浦町の宇久井神社例大祭で奉納される獅子舞には2系統ある。暴れ獅子と称される古座流を継承するのが秋葉会で、優雅な伊勢流の継承が宇久井青年会。この2系統を楽しめるのが宇久井の祭りだ。新宮市の三輪崎八幡神社例大祭で獅子神楽と鯨踊りを奉納する三輪崎郷土芸能保存会。4年ぶりの奉納となる今年の練習開始にあたっては“ゼロからのスタート”を強調していた。
これらの団体の会員を見ると、子どものころに地元の祭りに魅せられ、「自分も大人になったらやりたい」などと子ども心に決意を抱き、今に至っているというケースが多い。地元の伝統芸能を継承していくためにはこの流れが最も大切ではないか。学校の授業で体験したり、運動会で披露したりという流れは続いているが、祭り当日に見たり参加したりすることが年々少なくなっている。運営側もさまざな手段で、特に子どもたちの参加を呼び掛けるが、学校や習い事、スポーツ団体などの活動が忙しく、思い通りにはいかないのが実情だ。
少子高齢化の波は今後も加速する。今でも苦労している継承がさらに困難になることが予想される中、串本町古座地区では、「河内祭」の御舟行事で歌われる御舟謡の歌い手について、来年の祭りを見据えて地区以外からも募集することとした。時代の流れや社会情勢の変化に対し、運営側が柔軟に対応した一つの例と言える。また、三輪崎八幡神社例大祭で神輿とともに漁港に向かって巡行する山車(だし)のルートについて、ある祭典関係者は「住宅が増え、人口の多い山側に向けても巡行できればもっと大勢の人に参加してもらえると思う」と話していた。
伝統芸能のバトンリレーがスムーズに行われ、いつまでも地区伝統の祭りがにぎわうためには、守るべきものを守りながら、新たな形を模索する時代となっている。どの地区でも言えることだが、同じ方法を繰り返してもだめなら、運営側が変化する勇気も必要になるのではないか。