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社説「伝え続ける意味を」

 当地方に甚大な被害をもたらした紀伊半島大水害から10年。本紙では慰霊祭や追悼式、被災者の声など取材した。多くの犠牲の中で得た教訓を後世に伝え、再び同じような災害が起こった際には被害を防ぎ、少しでも軽減させること。9月は防災月間で、台風シーズンもまだ続く。災害に強いまちにするには、一人一人の防災意識向上が不可欠で、普段から紙面を通して、それを訴え続けるのがわれわれの役割。今回、取材を担当した記者もその使命を再認識する機会となった。

    ◇    ◇
 
 紀伊半島大水害を経験していない私が、遺族や被災者の方々の取材を行うということに、戸惑いを感じていた。しかし経験していない者だからこそ、伝えられることがあるのかもしれない。そうでなければいけないと思った。なぜなら、「伝える」という記者が持つ役割は、「知らない人に伝える」という意味を大いに含んでいるはずだからだ。
 
 取材で多くの方に話をうかがった。その中で何度も繰り返し聞こえてきたのは「忘れてはいけない」「伝えることが大切」という言葉。思い出すことも辛いような体験を各所で話したり、メディアを通して発信しようしたりするその姿勢には敬服する。
 
 大切な人を亡くした人、九死に一生を得た人以外は、時が経つにつれて忘れてしまう。あと当時幼かった子ども、災害以降に生まれた子ども、私のようにこの地方に移住してきた者にも例外ではないだろう。
 
 同じ体験をしてほしくないという願いが感じられる。「伝える」というのは、まさにこの水害を知らない人たちに向けた行為なのだ。
 
 しかしわれわれは過去から学び、被害を防ぐ・減らすことができる。そのために最も大切なことは、痛みを痛みで終わらせずに教訓として伝え続けることだろう。それぞれがそれぞれの痛みを抱えたまま、次の痛みを生み出さないために。
 
    ◇    ◇
 
 一被災者として率直に、あれからもう10年経ったのかと思う。当時1歳だった息子は小学6年生になった。これから先の長い人生の中で、子どもたちが災害に遭う可能性は大いにある。私にできるのは、自分の経験を伝えること。水害について、たびたび話してきたので最近はうっとうしがられることもあるが、きっと言いたいことは伝わっているはず。災害後に産まれた末っ子は、大雨が降るたび家が冠水しないか不安がる。でも、心配しすぎるぐらいがちょうどいい。
 
 穏やかな日常生活の中で忘れてしまいがちだが、私たちは災害が多い土地に住んでいるということを再認識して、いま一度防災意識を高めていかなければならない。10年が経過し、改めて身が引き締まった。
 

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