今年の那智の扇祭りは、不思議な雰囲気の中行われた。
この日は朝から雨模様。神事が粛々と進められていく中で、山肌をおおう濃い霧が境内にまで降りてきていた。降ったりやんだりを繰り返す雨が参拝客らをあちこちへと移動させ、確かに厄介なはずなのだが、どこかで、より近くに自然を、神々を感じるような趣すらあった。
那智山方面の取材は、雨と遭遇することも多い。紀伊半島大水害に関連する取材の中でも、重要な場面で急な激しい雨に出くわす経験があった。那智山とそのふもとでは、偶然と思えないようなタイミングで雨が降ったりやんだりする。
今回も印象的で、別宮から本社への還御の最中も方々から聞こえてきた出来事がある。別宮・飛瀧神社での御火神事から大前の儀、田刈式、那瀑舞までの一連の神事中、それまで降っていた雨がパタリとやんだのだ。大松明の炎は煌々と燃え盛り、無事にその役目を果たした。そして全て終わり、さあいざ還御という時になると、今度はバケツをひっくり返したかのようにまた降り始めた。
人と神の思いが近くなる時をお祭りと呼ぶのかもしれない。
【稜】