とげを磨くべし。ひたすらに、自分のとげを。周りの大人に褒められて、賞状なんかもらって、いい気になって余計に褒められるようなことを目指して、それで本当に満足できるだろうか。誰しも内から湧き出てくる、誰に認めてもらえるかもわからないような、社会にとっては毒にも薬にもならないような、それでも自分にだけは猛毒にも劇薬にもなりうるような、そんなドキドキがあるはずだ。
幼少の頃、大勢で磯遊びに行って、長いことカニを釣ろうと格闘していた記憶がある。他のみんなは海に入ったりしていたが、私は割りばしに刻んだスルメイカをタコ糸で垂らした小さな釣り竿で、岩の割れ目のカニとの駆け引きだけに熱中していた。結局しびれを切らした母親の説得に折れて引き上げたのだが、あのカニが釣れなかったことは忘れない。
“大人”は「無意味だ」「無価値だ」と言うだろう。しかし、そう言われながらもどうにも捨てることができないものがあるのなら、それを掴んで離すべからず。自分にしか価値がわからないものに出会うために、私たちはこの世に産声を上げたのだ。
【稜】