仏教を広めるために一切経の出版を思い立ち、自ら版木づくりの資金を求めて全国行脚した鉄眼禅師(道光)がいる。着手から10年目で一切経(6956巻)の版木をつくりあげた。「鉄眼版一切経版木」は重要無形文化財に指定されている。経典を全部書写するとなると、国家行事でなければできない話。そこで鉄眼は木版に彫ることを決意する。完成すれば何部でも増刷でき、庶民に安価で手渡すことができる。
完成した版木は6万枚。横82センチ、縦26センチ、厚さ1.8センチの桜版。この表裏に「20文字×10行左右見開き=400文字」で、文字が刻まれている。原稿用紙のルーツになっているのが、この版木。書体は明朝体でこれも「明朝体」のルーツと言われている。今、この版木を製作すると30億円を優に超えるという。
しかし、鉄眼の偉大さは、大阪地方の大洪水、近畿地方の大飢饉が起こった時、多くの人が苦しむのを見て、集めた資金を一度ならず二度までも投げ出していることだ。
有事の現今、彼の生涯に学ぶことは多い。
【茂】