熊野那智大社の例大祭で奉納する大和舞の練習が始まった。那智の田楽保存会の松尾さんらが指導者となり、市野々小の子どもたちに手取り足取り教えていく。経験者の高学年も動きを思い出しつつ、後輩たちに熱心に教えてあげていた。そこに西日が差し、練習場所の体育館が黄金色に包まれる。その風景を美しく、愛おしく思った。
古の人々が自然信仰の中から捧(ささ)げた祈りの形。それを代々継いで今に至る。伝えゆく中で形は変わったところがあるかもしれない。しかし、途方もない自然への感謝と畏れ、身近な人々の安寧を祈る心根は、今も昔も根本は変わらないのではないか。
当地方で取材するようになって強く感じることの一つは、継承することの尊さである。それは単に形を伝えるということにとどまらない。その中に詰まった先人たちの願いや思い、ともすれば絶望、そこから見出した希望など、あらゆるエッセンスがらせんを描くDNAのように無意識下に紡がれていくのだ。
難しいことではなかった。子どもたちの一生懸命な表情が、途方もないように感じた継承そのものであった。
【稜】
