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紀南抄「美はありふれる」

 美しいものに心を震わせていたい。
 
 美しさとは何か。絶対的なものか、相対的なものか。あるいはそのどちらもか。
 
 例えば人の容姿の「美しさ」は、時代や国によって異なる。平安時代の日本では頬がふっくらした「おたふく顔」が美しいとされていたが、現代一般のそれとは異なる。
 
 では、例えば朝日が海に反射して、いくつもの小さな波間が黄金色に輝くものを「美しい」と感じた時。これは、美女の定義とは異なる。国や時代によっても、それを美しいとしない文化があるとは考えにくい。では絶対的なものかというと、疑問が残る。人によって、あるいはその時の心身の状態によって受け取り方が変わる可能性があるからだ。
 
 思うに、人が美しいものを観測するためには、その前に“気付く”必要があるのだろう。虹が出ていても、下を向いて歩いている人は見つけられないし、気分が廃れている人は目を背けるかもしれない。
 
 雲、草花、鳥の羽ばたき、水、風、光…。美しいものがありふれているこの世界で、どれだけそれに気付ける状態にあるか。“健やか”とは、そういうことではないだろうか。
 
【稜】

      紀南紗

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