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紀南抄「木と文」

 先日森を歩いていて、文章表現は木に似ていると思った。
 
 すなわち根があり幹があり枝葉があり、花が咲く。根とは目に見えない部分であり、書く前の土台となる知識や経験、インプットである。幹は文章の本旨、もっとも伝えたいことや表現したいこと。しっかりとした土台の上には力強い幹ができる。枝葉は木が光や空気を取り込むための器官で、読者にその文を受け入れてもらうための工夫。順序、まとめ方、見せ方である。花は、それらが全て機能した上で開くその人らしさ。これは必ずしも咲くとは限らない。
 
 こう考えると、最も大事なのは根っこである。筆を持つときに、「文章を書くぞ」という意識が先に来てしまいそうになるが、本来は何か表現したいことがあってその手法として文章を選択するはずである。そのアウトプットのためにはいろんなことに興味を持ち、知識を得て、経験するといった日々のインプットが欠かせない。
 
 あるいは文章に限らないだろう。かの相田みつをも「根はみえねんだなあ」と書いていた。大きくなくてよい。少しの風では揺らがない、等身大の木でありたい。
 
【稜】

      紀南紗

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