川下方面から、猛々しい掛け声とともに遡上してくる木船に立つ白い旗がかすかに見えた。カメラを握る手に若干の緊張が走る。一番に着岸する優勝区のその瞬間を逃さぬようにと、私は早船競漕のゴール地点で待機していた。熊野速玉大社例大祭の御船祭である。
スタートから約1.6キロ上流まで漕ぎ御船島を3周し、島の対岸側(新宮市側)にあるゴールにいち早くたどり着いた区が優勝となる。下流から船が上がってきて、人だかりが一気に川岸へと押し寄せる。一瞬見えた白い旗は姿を隠し、時間をあけて先に掛け声が聞こえてきた。そうして一船目が姿を現す。旗には「王子」の文字。続いてどんどんと船が御船島へと入ってきた。男衆は上半身裸で、船内に2列に並び、息を合わせ猛烈な勢いで体を前後に動かし櫂(かい)で水を押し出している。勇壮であった。
早船は、神の御霊を乗せた神幸船を先導する役割を担う。人が神の水先案内を務めるにあたり、全身全霊をかけて行うことに意味があるのだろう。御船祭だけではない。さまざまな人の「全力」が祈りとなり、一つの例大祭で結びつき、御霊を御旅所へと渡したのだ。
【稜】