JR西日本は先月、利用者が減り、維持が困難になっているとするローカル線の収支を初めて公表し、和歌山県内では、きのくに線の新宮—白浜間が対象になった。今回の公表は、廃線ありきではなく、地元と存廃を含めた地域の交通体系について協議をしていくことを目的としているが、楽観視してはいけない。
JR西の公表を受け、仁坂吉伸知事はコメント発表し「鉄道は全国で公平に確保されるべきサービスで、黒字路線の収益を赤字路線に配分するなど、全ネットワーク維持の方向で考えるべきだ」と主張したが、公共交通と言えど民間企業である以上、同社の責任において路線維持を“丸投げ”するのは疑問。知事は、地域資源を活用した利用促進などの対応が必要だとも訴え、県としても路線の維持に向けて利用促進を図るとしたが、県がリーダーとなり、沿線自治体にも働きかけながら真剣に考えてもらいたい。当地域では、観光・生活両面から鉄道はなくてはならないもので、廃線となればその影響は計り知れない。
那智勝浦町の堀順一郎町長はこの件に関して、「なくなってしまうと観光地としてのイメージダウンは避けられない。また、通学に利用する学生の心配もある」と危機感を示す。今すぐの話でないにしても、今回の公表を“警告”と捉え、観光・移動手段の確保のために、自分たちにできることを広域で考えていく必要性を訴える。
この区間では昨年9月から、自転車を車内に持ち込める「サイクルトレイン」など、地域の特色を生かす取り組みが始まった。生活路線としてだけではなく、観光客を呼び込める特色があり、利用促進次第では収支改善を見込める可能性がある。
一方で、紀伊半島一周の高速道路整備に向けてめどがつき、マイカーでの移動が便利になる反面、鉄道をはじめとした公共交通の利用者減少に拍車がかかることも予想される。観光客に向けては鉄道を利用することのメリットを常に創り出す必要がある。例えば、鉄道利用者には当地域で移動の際のバスやタクシー利用で割引を適用する。飲食店や土産店にその対象を広げてもよいかもしれない。その分は自治体が負担する。
観光地として、誘客を図りながらできることはいろいろとあるはず。廃線の方向になってからでは建設的な議論もできない。県当局と沿線自治体はこの件を先送りにせず、地元の熱意を示してもらいたい。