和歌山大学とJR西日本和歌山支社が共同で取り組む鉄道防災・地域学習プログラム「鉄學」が11日、きのくに線串本~新宮駅間であった。JRや大学の関係者のほか、阪急電鉄や南紀熊野ジオパークセンター、串本町などから91人が参加。特急型の列車を実際に走行させて沿線の景色から歴史・文化的資源などを学び、最後には地震を想定して車両外へ緊急的に脱出する訓練も行い、率先避難者の養成に努めた。
「鉄學」は、鉄道に乗り、紀伊半島にある歴史・文化・環境・地質・成り立ち・住民の生活などを学びながら、いざという時の列車からの避難方法を体得し、率先避難者を増やしていくことを目的に、2016年にモニターツアーとして始まったプログラム。きのくに線では、津波浸水想定区間が全線の約35パーセントを占めるという。
参加者は串本駅ら3両編成の特急型列車に乗車。風景を見ながら沿線地域の魅力やこれまでの災害史、鉄道防災などについて講義を受けた他、学生向けの率先避難者を養成する紙芝居の披露や、「津波避難誘導降車台」といった設備の見学も行った。また、この日は東日本大震災(2011年)があった日付で、全員で黙とうを捧(ささ)げた。
最後に、新宮市の高野坂登り口付近で、地震を想定して避難訓練。列車が緊急停止し両側のドアが開くと、参加者は本番さながらに列車から飛び降り、「地震だ」「逃げろ」などと声を掛け合いながら避難した。
新宮駅に着いて、会議室で振り返り。ドアは両側開けるべきか海側は閉じておくべきか、という議論では、ドア付近で避難者が滞留してしまうことや車いすの避難者を降ろすことを考えると、両側開いている方がよいなどの意見が出た。また、鉄道会社は乗客の避難にどこまで責任を持つべきか、という疑問もあり、過去の訴訟の判例なども参考に話し合われた。
和歌山大学4年の高栖憲斗さんは「列車から飛び降りるのは高さがあってこわかった。お客さんをどう案内して落ち着かせるか、どこに逃げるか、第1波が過ぎた後の2次避難のタイミングなど、問題が1つじゃなくたくさんあると感じた」と感想。有事の際には率先避難者になりたいと話した。
「鉄學」プロジェクト事務局の西川和弘さん(和歌山大学教授)は総評として、どのように避難するか、車椅子の人をどのように列車から下ろすかなどの広報の重要性を強調。特に乗務員だけでは手が回らなかったり、乗務員がそもそもいない列車なども考えると、車両内の目のつくところで情報提供し、乗客の「共助意識」を高める必要があるとした。