人と話し合う時。向かい合う時。大切なのは言葉の切れ味を研ぐことではない。言葉の表面をそのまま受け取ることではない。お互い、本当は何が言いたいのか、どういう本心から今の状況にあるのか。言葉の奥の心に目を向けることだ。大切なのは、鉄壁無双の理論武装ではない。お腹の中にある最もやわらかい本音。それを、真心を込めて伝えることだ。
相手は理論の鎧を身にまとい、鋭い言葉の刃で切りかかってくるかもしれない。しかしそれに応戦してはいけない。気を静め、落ち着いて、今本当に問題なのは何か、どこで紐が絡まっているのか、明るい未来は探れないのか、そこだけに集中する。
田辺が生んだ合気道の開祖・植芝盛平は「真の武道に敵はない、真の武道とは愛の働きである。それは殺し争うことでなく、すべてを生かし育てる、生成化育の働きである」と語っている。勝つとは己の「争う心」に打ち勝つことだと。
本質的に敵はいない。ただ状況があるだけ。憎く思える人にも、愛する人がいる。感情に身を任せず、寄り添い、光を目指す。対話こそ道。79年。哀悼の誠をささげます。
【稜】