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紀南抄「分かるが分からない」

 会話で「分かった?」と聞かれると、いつも返答に困る。私としては分かったつもりではいるが、言いたいこと全てを理解しているはずはないし、分かっていないとしたら、分かっていないことも分かっていない。分かった部分も分かったつもりになっているだけの部分もあるだろうというのが本心だが、それを言っても始まらないことも分かっているので、返答に困る。困る私を見て相手は「分かっていないな」と思うのだろう。

 夏目漱石は「草枕」で「智(ち)に働けば角が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」と打ち明けている。まったく同感。人格者とは、全く何にも執着がない人なのだろうか。しかし、それって人としてどうなのだ。人間性の棄却が悟りの境地なのか。うむ、分からぬ。仮に分かったとしても、分かったような気になることを拒んでいる以上、それをもって「分かった」と手を打つこともできぬ。

 一つ分かったような気がするのは、何も考えず「分かった」と言ってしまえる人間の方が、おそらくモテるということだ。

【稜】

      2月 5日の記事

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