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紀南抄「師」

 トンビの羽根は太陽のにおいがする。それを教えてくれた人が、振り返りほほ笑む。弱肉強食だけが本当に自然界の不文律か。それよりも大きな法則が、宇宙をぐるぐると巡らせているのではないか。例えば美しさといったような。人はそういったものに触れ合った時、心を震わせるのではないか。人はそういったものに感謝する時、それを愛と呼ぶのではないか。
 
 僕の血は鉄の味がする。それを教えてくれた映画は、いつも私の奥にある。問う。ヒーローは信じるか。ピンチの時には必ず現れて、僕がどれだけ深く閉じ込められても助けに来てくれる。希望であり羨望であり願望であり信望である。もはや時間も空間も介在できない。ただ強く思い続けること。信じると決めたなら、それで自分を救うのだ。
 
 間違えた時は草にすわる。それを教えてくれた詩は、実家の本棚の色あせた白い表紙の本の中にあった。野原に身を預けた時の、青々しい香りが好きだ。ぐぐぐっと鼻腔の奥に満ち満ちてゆく溢れんばかりのあの生命のにおいが、自分の動かしようのない本当の心に立ち返らせてくれる。
 
 万物に師を見る。
 
【稜】

      紀南紗

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