「森を破壊して、何の伝統ぞ。何の神道ぞ。何の日本ぞ」—。神社合祀令に頑として反対した知の巨人・南方熊楠の言葉である。
熊野本宮大社は来年春の例大祭から、湯登神事や渡御祭に外国人も交える方向で動いている。海外の人に興味を持ってもらう他、祭りの参加者の不足という長期的な課題の解消にもつながるだろう。各地の神社、あるいはあらゆる産業で生じている担い手不足という課題に一石を投じることになれば面白い。
伝統を守るため既存の通念を破っていく姿勢に恐れ入る。柔道の創始者・嘉納治五郎は「伝統とは形を継承することを言わず、その魂を、その精神を継承することを言う」とした。慣習に安易に固執せず、変えるものは変える。同大社は、例大祭への外国人の参加は何ら本質を損なわないと判断した。千客万来の熊野らしい決断である。
人口減少で日々、いくつのも伝統が損なわれている。熊楠が今の日本を見たらなんと言うだろう。文化の衰退と経済の発展がかみ合えば自然環境は言う間もなく淘汰される。何を変え何を守るべきか。本質に寄り添う姿勢が郷土を守る。
【稜】