キーボードを打つ手が迷う。書いては消し、消してはまた書きを繰り返す。時間をかけ、1本の記事を出稿した。
1市5町村による一部事務組合が太地町に設置・運営する施設「南紀園」での看護師の分限免職をめぐって、それを「不当解雇」と主張する組合らが開いた集会を取材した。また南紀園にも話を聞き、両論併記を目指した。
2つの対立的な構造に記者として関わることで今回、自分がしている仕事の“不確かさ”と向き合うこととなった。それは、“真実”を持たない者がその物事を公に向かって記述することの危うさである。当事者からすれば、真実はそれぞれの中にある。しかし記者は完全なる第三者であり自分なりの真実すら持っていない。
この件に限らず、人から話を聞きそれを人へ伝えるという仕事は、実は雲をつかむような所業なのではないかと思える。それでも前を向いて書き続けるためには、自分の中に天秤を持たなければならない。それは司法のようにどちらかに傾けるための秤ではなく、釣り合うところを多重に探り、釣り合うとは何かを問い続ける揺らぎへの信念である。
【稜】